鎌仲監督とは「ヒバクシャ」(2003年) の英語字幕を手伝ったのがきっかけで作品に触れるようになり、自分が坂本龍一氏と
「Stop-Rokkasho」を立ち上げた2006年は鎌仲さんが「六ヶ所ラプソディー」を発表したり、色々な縁が重なって、ようやくお話をする機会が出来ました。「ミツバチの羽音と地球の回転」のサウンドトラックを監督から依頼された時は、自由に制作
して良いと言って頂いたので、スタジオに籠って「何を作曲しよう」と考え込むよりは、出来るだけ外に出て、自然に組み立てて行こうと心がけました。
2009年の秋にベルリンをぶらりと訪れた時、たまたま通りかかったジャズバーで齋藤易子さんがマリンバのリハーサルをしている所でした。数時間後に戻ると着物姿でデュエットをしていて、ライブを見た所、曲風が素晴らしく独創的で「是非サ
ントラに参加して欲しい」と思い、ライブ後に声をかけました。後日、齋藤さんがライブで来日したタイミングで、浅草の
スタジオでセッションをお願いしました。その時に紹介されたのが、齋藤さんとは旧知の仲であるパーカッショニストの佐藤直子さんです。佐藤さんとはそれ以来、レコーディングやライブでもお世話になっていて、素晴らしい表現者です。レコ
ーディングは簡単なディレクションはしたものの、基本的に彼女達が繰り広げたフリーセッションです。鎌仲監督が映画の
シーンのために抜粋したものが、楽曲として収録されています。
ラップ曲の「隼」も、セッション中のグルーブをトラック用に編集したものです。隼のモチーフは、祝島を訪れた時にそこ
に生息しているると知って以来、俯瞰した視点を持つシンボルとして題材にしました。歌詞を書くのに時間がかかってしま
ったため、ブルックリンにある仲間のスタジオから期限ギリギリで納品したのが、今となっては良い思い出です。録音はつ
くづく「なまもの」だと思いますが、結果的に緊迫した雰囲気が伝わったと思います。
エミ・マイヤーと録音したピアノ楽曲はスウェーデンのシーンで使われていまですが、祝島を彩るマリンバのセッションと
は対照的なイメージを醸し出すことが狙いでした。2004年にスウェーデンでライブをする機会もあったので、北欧特有の透明感のある情景を思い浮かべて作曲しました。
Ras Takashiは以前からレコーディングでお世話になっていて、人間的にも慕っているのですが、祝島に強い興味を持ってい
たのでサウンドトラックにも参加して貰うことになりました。Cruel Worldのダブ・バージョンを制作する所から始め、オリジナル曲の「Bright Future」も貢献してもらいました。レゲエ発祥のジャマイカと同じく、日本も島国。祝島の自然と共に
暮らす精神が音楽を通じて世界と繋がって行けば、と切に願っています。
「Cruel World」は実は5年くらい前から温めていた曲で、始めはDanny McEvoy(ダニー・マッカヴォイ)のデモをネットで聴いて、リミックスしたいと頼んだのがきっかけです。Dannyはリバプール近郊に住む若手ミュージシャンで、ラッパー
でもあるんですが、独特のボイシングとメッセージ性の強い曲だったので「いつか何かの映画のエンドロールにしよう」と
リリース時期を見計らっていた所、ちょうどこのサウンドトラックに使わせてもらえることになったのです。彼にリバプー
ルも案内して貰いましたが、奴隷博物館もあって、昔は奴隷貿易のための造船が盛んだったそうです。何世紀も経って、
世界は目まぐるしい発展をしながらも、多くの問題も増やしています。どんどん広がる格差、進む環境変化を乗り越えて、
自然を尊ぶ心を忘れないためにはお互いに何を確認すべきなのか。
製品を産み続ける以上、誰もが矛盾と課題を抱えています。しかしながら、その生活の中でも持続可能な世界、消費のサイク
ルを求めることは既に不可欠であり、逆にエネルギー源を選ぶことが可能な時代になっています。便利な情報社会において、
誰もが言動を持って活躍できるチャンスがあるのは、素晴らしいこと。これからも、日本のみならず世界に目を向けながら共
生と言うテーマを真剣に考えて行きたいと思っています。